これは66歳のランナーが坂道を楽しみながらサブ4を目指して走った京都マラソン2025の記録である。

 京都マラソンには、2016年、2017年、2023年と過去3回参加している。走り終わったあと、また走りたいなと思う大会だ。4回目となる今回は、どんな結果が待っているのであろうか。

1.受付会場へ
1.1 鳥居のお出迎え

 近頃はアスリートビブスなどを事前郵送してくる大会が増えた。近郊の大会の場合はそのほうがありがたい。しかし前泊して遠征する身にとっては、レース前日の受付会場に行くのもひとつの楽しみである。さあいよいよ明日はマラソン大会だと気持ちが盛り上がる。

 2025年2月15日土曜日の昼間、京都は快晴である。平安神宮の鳥居が青空に映える。ここは写真を撮らなければと、リュックから一眼レフを取り出し首にかける。フルサイズ一眼レフは重い。マラソン遠征に持ってくるのは荷物になる。でも「スマホで撮れば、それでいいじゃん」とは思わない。

 前方からスタッフの人と一緒に福士加代子さんが歩いてくる。レンズを向けたくなる衝動にかられるが、それは失礼と思ってその代わりに手を振った。が、全く相手にされなかった。

1.2 おこしやす

 受付会場の入り口には「おこしやす」とある。「おこしやす」を標準語に翻訳すると、「わざわざお越しいただいて、ありがとうございます。」だ。ここは「おこしやす」でなければならず、「おいでやす」ではだめらしい。でも私には、「おこしやす」と「おいでやす」のニュアンスの違いはよくわからない。

 各国語の「おこしやす」の前にお神輿。皆さんスマホで写真を撮っている。この場所には特別な照明があたっていた。そのため後で現像するときに正確にホワイトバランスをとれるよう、リュックからグレーカードを出して神輿の前に置き、撮影しようとした。しかしそんなことをしていたらスマホを構えている人の邪魔になってしまう。いくらなんでもやりすぎなので、設定をオートにして人がいなくなるのを待ち続けた。ようやく撮影できたのがこの1枚である。

2.目標タイム

 京都マラソン公式ブースでの撮影は30分待ちだったのであきらめた。第一生命のブースは比較的列が短いので、そちらで目標タイム4時間20分を宣言する。スタッフから、「Bブロックなのにそのタイムでいいんですか?」と言われたが、実際のところ完走できるかすら、走ってみないとわからない状態だ。

 一眼レフを横に置き、スマホを渡して撮影してもらった。その後撮影してくれた女性が、「そちらのカメラでも撮りますよ。」と自信満々に言うので、それならとカメラを設定して渡した。
 この写真は一眼レフで撮ってもらったもの。初めての体験である。

 2年前に参加した京都マラソン2023は、
  グロス 4時間28分29秒
  ネット 4時間26分46秒
であった。今回はそれより少し速く走りたいなという程度の目標である。

3.今シーズンの戦績

 2024秋から2025年春シーズンは、毎月1回フルマラソンを走る計画である。質(タイム)より量(回数)で勝負なのだ。現在66歳で、この先いつ走れなくなってしまうかわからない。だから走れるうちに走っておくのである。今シーズンここまでのフルマラソンのネットタイムは次の通り。
 2024年10月24日 横浜マラソン   
       4時間18分16秒
 2024年11月24日 つくばマラソン  
       3時間49分14秒
 2024年12月15日 みえ松阪マラソン
       4時間12分51秒
 2025年01月26日 勝田マラソン
       4時間09分22秒

 勝田から3週間しか経過していない。しかも左脚ハムストリングスには、みえ松阪マラソン以後ずっと軽い肉離れのような感じがあり、怖くてスピードを上げて走れない。


 京都マラソンを走り終わったあとのGARMINの画面で勝田から京都までの練習記録をお見せする。GARMINを使っていない方のために説明すると、オレンジ色は高強度有酸素運動である。キロ6分半程度で走れば高強度に分類される。水色は低強度有酸素運動であり、キロ7分より遅いスロージョグやウォーキングである。勝田以降では、2月11日に府中駅伝で4.1km走ったのが唯一の高強度有酸素運動である。そして京都マラソンを走ったのである。もちろんこの間の無酸素運動はゼロである。こんな状態なので、前日の段階では4時間20分なら上出来と思っていた。

4.前日観光

4.1 平安神宮

 受付会場を出て、早速平安神宮を参拝しようとした。しかしなにやら工事中のようなので、近くまでは行かずに、青空の写真だけ撮ってすぐに退散する。

 そこから明日のマラソン最終盤のコース部分を逆にたどって歩く。明日はここの42km地点を走って通過できるのであろうか。昨日走る代わりにスクワットを50回したけど、無駄なことをしたかな。そんなことを考えながら東山駅まで歩き、地下鉄に乗る。

4.2 二条城

 地下鉄を二条城前駅で降りる。2017年の京都マラソンを走り終えたその日に来たことがある。その時のタイムは、グロス3時間29分14秒、ネット3時間28分30秒という素晴らしいものであった。天気がとてもよかったことと、これが人生最後のサブ3.5かなと思ったことをよく覚えている。実際にそのレースが人生最後のサブ3.5になった。生まれ変わらない限り更新できないタイムだ。

 まだ時間もあるので中に入ろうとして、入場券売り場の前に立つ。Outsite Onlyで800円は高い。せっかくなので奮発してNinomaru-goten Palace付にしようかと思うが、1,300円はかなり高い。Honmaru-goten Palaceには、さらにプラス1,000円必要らしい。尻込みしてしまう。結局、まあいいや外から見るだけにしようと、入場せずに歩き出す。
 外周にはランナーが何人もいた。明日の調整か、それともただのジョグかな。

 二条城は外から眺めるだけで十分だ。それほど天気が良い。昨年のびわ湖マラソンでみかけた「飛び出し坊や」もいた。

 びわ湖マラソンのように5時間以上かかったとしても、明日は完走だけはしたいと思う。

4.3 大覺寺

 JR二条駅まで歩く。チョークで書き込む伝言板がある。実際に使われているものではなさそうだ。昭和人間でなければ、何だかわからないだろう。

 JRで嵯峨嵐山駅まで移動し、大覺寺に向かう。しばらく歩き大覺寺門跡に到着。ここも京都マラソンのコースで、明日走るところだ。

 大覺寺の大沢池のそばにある心経宝塔は、見た記憶がある。マラソンではなく、バスケットボールの試合を観戦しにきたときと思う。
 夕暮れ時が近づいてきた大沢池には私だけしかいなかった。心が落ち着く風景だった。
 

4.4 渡月橋

 大覺寺から渡月橋に向かって歩く。途中に清凉寺があり、ここも誰もいなかった。
 こうして一人で歩くのは好きだ。ここも立派なお寺だなと感心して写真を撮る。

 清凉寺からまっすぐ下ると、渡月橋がある。歩いていくうちに、人がどんどん増えてきて、観光地そのものになってしまう。日本人より外国人観光客のほうが圧倒的に多い。アジア系だけでなく、欧米の方々も多い。

 渡月橋は周りの景観に溶け込むように設計されたと思うのだが、あまりに多くの人が渡っているので風情を感じない。渡っている外国人にとっては、ここがなぜ名所なのかわからないかもしれない。私にもわからない。

 いろいろな方向から眺めてみたが、これだという場所はない。渡月橋そのものをプロの写真家はどう撮影して絵葉書にしているのか知りたいと思う。

 方角から考えると、夕日は山に隠れるので日が沈むときに奇麗な絵にはならない。朝日が昇るときにシャッターチャンスがありそうだ。人工的な美しさならライトアップした橋だ。でもいくら観光がメインとはいえ明日はフルマラソンなので、夜までここにずっといるわけにはいかない。暗くなる前に阪急の嵐山駅に向かう。

4.5 ホテルへ帰還

 渡月橋より阪急嵐山駅のホームのほうがきれいだ。そう思う自分は、なんてつまらないやつなんだろう。
 明日の朝下車する西京極駅を通過し、マラソン前夜であることをあらためて思い出す。

 ホテル近くの阪急大宮駅で降り、駅前にあったガストで夕食にする。京都まで来てファミレスでパスタ、パン、ドリンクバーだけの夕食はちょっと寂しいのであるが、マラソン前夜は炭水化物だけでOK。

 今日はちょっと歩きすぎた。ガーミンの記録は、ウォーキング15.3km、34636歩。 明日の早朝は雨が降るようだ。前回参加した2023年はスタート前は大雨で、スタートが近づくまで西京極球場のスタンドの下で待っていた。今年はあまり降らないで欲しいなと思い、眠りにつく。

5.京都マラソン2025
5.1 朝は雨

 朝起きたときは雨が降っていて不安になる。何かの間違いでガーミンのフルマラソン予測タイムぐらいで走れないかなと思ったりする。ガーミンは私が故障していることを知らないから、こんなタイムを予測してしまうのだろう。
 今からできることは朝食をしっかり食べてトイレに行くことだけだ。

5.2 会場到着

 会場に着くころには雨はあがった。スタート時の気温は9℃、湿度50%ぐらい。曇りで無風。奇跡的といえるほどの好条件であり、自分の体調も悪くはない。ウエアは上からキャップ、サングラス、バンダナ、半袖のTシャツ、アームウォーマー、ハーフタイツの上に短パン、ゲーターである。長袖のシャツ、ロングタイツ、ネックウォーマー、手袋、ホカロンなど寒さ対策も用意してあったが、不要と判断した。そばにいたかなり速そうなお兄さんに頼んで写真を撮ってもらう。

 今日もTシャツは、勝田マラソンで好評だった東京羽田ヴィッキーズの「準備はいいか?」である。東京羽田ヴィッキーズとは、女子のプロバスケットチームである。京都マラソン当日時点で、フューチャーリーグ2位である。今季残り3試合。2月22日、23日に同率首位である三菱電機との直接対決2連戦が控えており、連勝すれば優勝である。私の界隈では異様な盛り上がりで、バリーさんはよくマラソンなんか走っていられると思われているようだ。でも私はこのTシャツで走ることで応援しているのである。

5.3 整列

 陸上競技場でトイレも無事済ませ、一度外に出て少し走る。今日はなぜだか調子がいい。左のハムストリングスはまだ痛くはない。戻ってトラックに整列する。京都マラソンではスタート地点で防寒服を回収してくれる。2年前にも持ってきて使わなかった500円の古着を2年越しで着る。

 千葉真子さんの甲高い声に合わせて体操をする。やる気!元気!森脇健児もなにやら叫んでいる。そう、今日はBブロックスタートなのだ。開会式はビジョンに映し出されているが、直接見ることができるほどスタートラインに近い。故障個所に不安があるが、今日はサブ4ペースで突っ込んでいき、行けるところまでいこうと整列してからペースを決めた。

5.4 さあスタート

 午前9時、号砲がなる。ガーミンはスタートさせない。ネットタイムだけ計測するためだ。スタートロスは計測していないが、2分ぐらいかなと思う。競技場を出たところは雨に濡れた石畳で滑りそうで怖い。道路に出る前にコース幅が狭くなり、渋滞する。

 スタートから5kmまでは、高低差はなくほぼフラットである。

 手元計測タイム(以下同様)
 00-05km 6:02 5:37 5:26 5:38 5:39
 この5kmのラップタイムは28:21
(公式記録)

 スタート渋滞で最初は少し遅かったが、目標の28:20ちょうどで5kmを通過した。スタートから5kmは抜かれっぱなしであった。応援NAVIで後から確認すると、この間に順位を649位落としていた。

 でもこれでいいのだ。周りのランナーに向かって、口に出さずにつぶやく。
 「おまえら後で全員抜き返してやる。最初は抑えめに走ったほうが結果的は速くゴールできるんだよ。」

 桂川左岸を進む。左手に渡月橋が見えてくる。走りながら見る渡月橋は、昨日とは違って素敵に見える。渡月橋の一つ手前の交差点を右にまがる。ここまではウォーミングアップ。さあここからが京都マラソンだ。

 6kmあたりに嵐山高架橋があり、ここからアップダウンを繰り返す。全体的には上り基調である。

 昨日巡った清凉寺や大覚寺、そのあと広沢池を左手に見て進む。そのあとかなり急な登りがある。ペースはそれほど落ちない。ちょっと下って10km地点が来る。

05-10km 5:34 5:38 5:36 5:34 5:50
5kmのラップタイムは28:12
実によいペースである。いよいよ前半のハイライトを迎える。

 10km通過後1kmぐらい行ったところに仁和寺があり、お坊さんが大勢応援してくれる。これがかなり力になる。そして龍安寺に向かってまた急な坂を上る。
 12kmを過ぎたあたりでサブ4のペースランナーに追い付かれ、しばらく並走する。聞いてみると、「グロスでぎりぎり4時間を切るペースで走っている」とのことだった。ちょうど良いペースだったが、あまりに大集団で何度も後ろから蹴られたりするなど接触して走りにくいので、集団の後ろに下がった。

 明日の観光はこのあたりにしようかな、などと考えながら走る。

10-15km 5:34 5:44 5:36 5:37 5:35
5km毎ラップタイム 28:05

 ここまでの難所をそれほど力まずにすっと通れた。

 15kmを過ぎ、また登り坂になる。今宮神社などを通過する。もう少しで最高地点のはずである。このあたりの給水所から、ドリンクだけでなく食べるものも置かれている。

 15.3kmではバナナ、17.6kmでは都こんぶとひじりの里をいただき、ぱりんこを一袋ポケットに入れた。

 賀茂川の右岸にでれば、もうこちらのもの。この先は35kmぐらいまで概ね下り基調となる。いったん上流に向かい、橋を渡って折り返し、再び橋を渡って右岸に戻ると、すぐに20km地点となる。

15-20km 5:43 5:37 5:56 5:28 5:27
5km毎ラップタイム 28:11

 20kmを過ぎ、左折して賀茂川から離れる。すぐにエイドステーションがある。

 20.6kmでは、いちごソフトをいただいた。写真で見るより実際は大きく、食べ応えがあった。

 中間点での手元計測ではネットで1時間59分ぐらいで、サブ4を目指すなら理想的なペースである。このまま最後まで行けるんじゃないかと感じていた。

 23.1kmでは給食に手を出さなかった。

 北山通りを進むと最初の折り返し点がある。サブ4の集団は前方に見えてる。ペースランナーとの差は、すれ違った時から折り返し点までの秒数を計測して2倍して計測した。おおそ片道で10秒、すなわち20秒自分は後ろにいる。この位置も理想的である。

 折り返してから左折し、25km地点を通過する。

20-25km 5:47 5:25 5:55 5:31 5:33
5km毎ラップタイム 28:10

 これはすごいぞ。坂が多いコースなのに、5km毎ラップはほとんど一定だ。

 2年前のレースでは、この辺りで苦しくなった。そして折り返して北山通りに戻って左折したところのトイレでレースは終わってしまったのだった。このときの苦しさは、京都マラソン2023顛末記に残してある。横目でそのトイレを見て、2年前の出来事を鮮明に思い出す。
 26.5kmでは京バウム、29.5kmではバナナと姫千寿せんべいをいただいた。京バウムは大きく切ってありボリューム満点、姫千寿せんべいは京都らしい上品なお菓子であった。

5.5 ここから勝負の30km

 府立植物園に入る。走りやすいとはいえないコースであるが、ここで変化があって気分が変わるので、このような部分があるのはメンタル的にとても良い。前回は失速していたので舞妓さんの前で減速して手を振ったりしたのだが、今日はスピードを落とさずに通過した。

 賀茂川河川敷はコース幅が狭い。失速しているランナーが邪魔で、ジグザグに走って次々に抜いていった。30km地点を通過する。

25-30km 5:36 5:54 5:32 5:47 5:40
5kmラップタイム 28:29

 手元で確認したスプリットタイムは2時間24分30秒。キロ5分40秒ペースに対して30秒貯金がある。このあたりから、せっかくいい感じできているのでサブ4で走りたいと欲が出てくる。下り坂でもあり、ペースアップして走る。

 32.2kmのエイドでは、いちごをいただいた。いちごはマラソンの給食として理想的な味がする。トマトも食べたかったが、他のランナーと交錯してしまい取りそこなった。失速してエイドで歩くようなときは狙った給食は止まってでも必ず取るが、今日は減速せずに走って取るので、取りそこなったら諦めるしかない。

 つまり今日は調子がいいということだ。私は胃腸が弱く、マラソン途中でお腹が痛くなることがよくあるが、今日はそんな気配もない。

 河川敷が終わり右折して京都御所の前を走る。

 3回目の折り返しで計測したところ、サブ4ペースランナーから30秒遅れぐらいであった。よしいいぞ。これならいけそうだ。タイムは二の次で楽しめればいいとか言っているが、目指すのはサブ4だ。2年前は京都御所をゆっくり眺めながら走ったが、今は前を向いて走るだけ。右折して35km地点を通過する。

30-35km 5:29 5:33 5:50 5:35 5:33
5kmラップライム 27:59

 この先のエイドには給食がない。短パンの後ろポケットからカフェイン入りのジェルを出して摂取して、35.1kmのエイドで水を飲んだ。距離合わせのような部分を抜けて左手に賀茂川をみながら直線コースを走る。この辺りは賀茂川ではなくて鴨川なのかもしれないが、そんなことを考えている余裕はない。この直線はほぼ平坦だが辛い。この先に長い上り坂が待ち構えていると思ってしまうからなのか、それとも35kmを過ぎてさすがにへたばってきたからか。あと少し。残り5km地点で、手元計測のラップライムはちょうど3時間30分だった。あと5kmをキロ6分で必ず走るんだ。左に曲がった後、京都大学のあたりを右折する。

5.6 最後の坂

 大文字の山に向かって登っていく。上りではなく登りである。キロ6分ぐらいまでペースは落ちる。6分でこらえればあとは下りだ。周りには歩いているランナーもいる。私は絶対歩かない。ゆっくりでも走り続けるんだ。

 ここに坂道があるのが、京都マラソンコースのいいところだ。そうは簡単にサブ4なんかさせないぞ。悔しかったら、勢いよく駆け上がって来いといわれているようだ。

 39kmの最後の坂をなんとかキロ6分で登り切る。折り返しでペースランナーとの差は40秒ほどであった。ネットでサブ4は行けると確信する。下りでスピードを上げて40kmを通過。グロスではサブ4ぎりぎりの感じである。

35-40km 5:40 5:41 5:48 5:59 5:31
5kmラップタイム 28:39

5.7 フィニッシュ

 ここでよせばいいのに、さらにペースアップしようとしてしまう。グロスサブ4が頭をよぎったのだ。しかし右足ふくらはぎが痙攣し始めた。このままでは攣ってしまいそうだ。攣ったらネットでのサブ4もできなくなる。ペースを落としてネットでのサブ4だけを確保しようと安全運転に切りかえる。

 かなり危うくなって42kmを迎えようとしたときに、フィニッシュ地点からカウントダウンのアナウンスが聞こえてきた。グロスの4時間だ。最後の195mはフィニッシュゲートと平安神宮の鳥居を見ながら、一歩一歩踏みしめた。サングラスとバンダナを外してポーズをとってゴールする。出し切った感と達成感のあるフィニッシュだった。

 ゴール後に12km過ぎにお会いしたペースランナーさんにお礼をした。そしてふと、これが人生最後のサブ4かもしれないと思った。2年前に見かけた京都府知事が今日もインタビューを受けていた。

 完走タオルやメダル、おにぎりとドリンクなどを受け取り荷物を受け取る。荷物受取はとてもスムーズで、テントに近づくときに手前にボランティアさんがナンバーを読み上げ、テントに到着したときには、別のボランティアさんが荷物を持って待っていた。待ち時間はゼロである。そしてすぐに屋内に入って着替えられる。比較的規模が大きい大会であるが、動線が良く考えられていることは素晴らしい。もう一度走りたいと思うかどうかは、フィニッシュから着替えまでにストレスがあるかないかも大きな要素である。私は年に1回は関西地区の大会に出場しているが、大阪マラソンを選ばないのは新コースになってからこの部分が悪くなってしまいもう走りたくないと思ったからである。

 着替えに入る前に、係の人に写真を撮っていただいた。これでフルマラソン完走は76回となった。

 このフィニッシュ記念写真を見て、なにかおかしいと感じた方は察しがいい。背景に他のランナーが映っていないのはおかしいでしょ。これはアプリで背景の人物を消したものなのだ。人が映っているときはモザイクをかけてからアップするようにしているが、今は一瞬で消せる時代になっている。フルマラソンを完走して疲れた体で初めてこの機能を試してみて、とても感心した。

5.8 疲労困憊

 着替えてから無料のみそ汁をいただき、おにぎりも食べ、300円の抹茶アイスを頬張った。無料送迎バスは20分待ちだったので、自動販売機でコーラを買って飲みながら東山駅まで歩いた。地下鉄には、多くの疲れ果ていて、でも満足そうな顔をしているランナーで混雑していた。着替えもせず、走り終わったままタオルを首にかけて地下鉄に乗っている外国人ランナーも多くいた。

 ホテル近くの銭湯に行くつもりだったが元気が残っていない。コンビニで昼食を買ってまっすぐホテルに帰ってシャワーを浴び、コインランドリーで洗濯した。夕食はちょっと贅沢をと思っていたが出かける気力がなく、もう一度近くのコンビニで弁当を買ってホテルで食べた。残念な夕食かもしれないが、サブ4で走れた達成感がそんなことは吹き飛ばしていた。

5.9 目標ペースとの差

 サブ4のペーサーは、かなり正確に走っていると感じていた。ペーサー集団はずっと見えていた。そして自分の時計はネットで計測していたが、キロ5分40秒は走りなれたペースであり、5km毎に手元でその設定ペースとどれだけずれているかチェックしていた。

スプリット 5:40/kmとの差
05km 0:28:23  +0:03
10km 0:56:35  -0:05
15km 1:24:40  -0:20
20km 1:52:50  -0:30
25km 2:21:01  -0:39
30km 2:49:30  -0:30
35km 3:17:30  -0:50
40km 3:46:08  -0:32
Goal 3:58:55  -0:13

5.10 公式記録

 坂の多いコースで最初から最後まで1分以内の誤差しかないのは我ながら立派である。公式記録を応援NAVIで検索すると、次のようであった。

 中間点の順位が4417位、ゴールで3737位なので、後半680位順位を上げている。イーブンペースで走れば後半はごぼう抜きになる。楽しい。ぜひ皆さんも前半にタイムの貯金を作ろうなどと思わず、最初から最後までイーブンペースで走り切ることをお勧めする。

 夜9:00にKBS京都というTVチャンネルで京都マラソンの特集があった。福士加代子さんが、「京都マラソンは前半アップダウンがあるので、ずっと平坦なところを走るより体がほぐれてよい」というような感じのことを話していた。そんなものかもしれないなと思う。

 タイムをしみじみと眺める。自分らしxzを自己表現しているような、いい走りだった。明日は仁和寺に行こうと決めて、眠りについた。

6.翌日観光
6.1 金閣寺

 ホテルからバスに乗り、地下鉄・バス1日券で京都駅へ。コインロッカーに大きな荷物を預けて身軽になる。地下鉄で北大路、そこからバスで金閣寺へ向かう。バスは外国人観光客で混雑している。外国人カップルの男性が、運転席後ろの席の後ろにある、ここに荷物を置いてはいけないと表示のある台に登って座り、女性にキスをする。運転手さんは気が付いていないのか。どうしたものかと思っているとき、女子大生と思われる小柄な女性が近づいていき、注意して台から降ろさせた。京都の女子大生は観光客慣れしている。大したものと感心する。

 バスを降りて道路が結構急な坂道なので驚く。マラソンコースでは14km付近になる。昨日ここを走った時はそれほど登っているとは感じなかった。前半で余裕があったとはいえ、我ながら良く走れたと思う。

 金閣寺が見えるところは大勢の人で混雑している。ある程度は予想していたが、今はシーズンオフの月曜日の朝だ。有名すぎるところに来るのではなかったと後悔する。皆群がって記念撮影している。金閣寺を初めて見れば、外国人でなくても、誰でも感嘆する。

 私はここでの写真撮影はあきらめる。スマホで撮影している人が多いが、高級ミラーレスカメラで撮影する外国人も多くいた。すべて日本製であるのは少し誇らしい。メーカーは、多い順にソニー、ニコン、キャノンといったところ。私はキャノンのフルサイズ一眼レフを首から下げて先へ進む。

 金閣寺は、誰が撮影しても同じようにしか写せないと思う。そして誰が撮影しても美しい。どうすれば自分らしさを映し込められるのか、よくわからない。青空がひろがったので戻り、人が通り過ぎるの待って、インスタグラム用の写真を撮り直す。
 金閣寺は、庭園や池など周りの景観があってこそ美しい。このことを撮影できたかどうかは良くわからない。それにしても誰が何のために建造したのだろうと思う。(今回は予習してこなかった)
 

 順路に沿って写真を撮りながら進む。修学旅行生と一緒になり、ガイドの説明を聞く。家に帰ったあとでは、その時なるほどと思ったことだけしか記憶になく、内容は忘れてしまっていた。たいして興味がないことはすぐに忘れてしまうものなのだ。

 金閣寺というからにはお寺なのであるが、お賽銭をあげて手を合わせることはしなかった。途中のお店は、観光地そのもので商売になるのかと思う。しかし窓からのぞいたCafeには外国人観光客の姿があり、それなりに需要はあるのだろう。先ほどまで快晴だったのに急に曇ってくる。バス停に向かう途中で雨が降り出した。

6.2 龍安寺

 金閣寺前から龍安寺前まで、歩いても行ける距離なのにバスで移動する。できる限り歩くことをモットーにしているが、雨を言い訳にした。龍安寺(りょうあんじ)に着くころには再び青空が広がった。

 まず、靴を脱いで入ったところにある書に、心をつかまれる。しかし照明のあてかたが悪い。これでは写真が良く撮れない。反射してしまう。でも照明を消してくれとはいえない。一応写真におさめたが、横で販売していた絵葉書のなかから1枚選び購入した。「禅」と一文字書いてあるもの。私は書を見るのも好きで、書道展に行くこともある。

 石庭で、金閣寺で出会った修学旅行生とガイドさんに再会する。石庭には石が15個あり、すべてを一度に見られるアングルは一か所しかないと説明していた。15と数字が入っていたので、帰宅しても覚えていたのだろう。
 部屋の中の襖には、龍が描かれていた。

 石が飾られている。私には、石庭より魅力的に映る。でもなんでここに石というか岩が置いてあるのか意味は解らない。
 龍安寺はここまでにして、後にする。

6.3 きぬかけの道

 龍安寺からきぬかけの道を歩いて下り、仁和寺を目指す。京都マラソンの前半のハイライトが仁和寺でのお坊さんの応援と、仁和寺前後にある登り坂である。走っているときは、きつい坂だけれどこれも京都マラソンの楽しさだと思うので精神的には辛くない。しかしこうして歩いてみると、急な坂だなと感じる。この急な様子を、なんとか写真に収めようとチェレンジする。

 きぬかけの道を京都マラソンのコースに選んだのはよかったと思う。これが京都らしさで、何度も走りに来る理由の一つである。それに引き換え東京マラソンはいいタイムが出せるようにとコースを変更し、終盤の楽しみだった豊洲の橋が無くなってしまった。世界最高とか日本最高記録を目指すなら平坦なコースのほうがよいのはわかるが、そのような記録を狙えるのは3万人のうちの3人程度だ。市民マラソンなのだから、トップ選手のためにコースを変えるのは筋違いと思う。

 さらに言えば東京マラソンの新コースで最悪なのはフィニッシュ地点である。東京駅と皇居の前にフィニッシュゲートがあるのは見栄えはよいかもしれないが、ゴールしてから荷物を受け取るまで寒い中をどれだけ歩かされるのか。ランナーファーストではない。以前のように東京ビックサイトにゴールして、すぐに屋内に入れるほうがよほど良い。

 同じことが大阪マラソンにもいえる。38kmの橋があったからこそ、そこを目指して頑張れたのだ。走り終わったらインテックス大阪の中にすぐ入れたのもよかった。大阪城で荷物を受け取ってその場で着替えろということだが、雨の日だったらどうしてくれるんだ思う。ランナーのことを全く考えていない。

 でも、昨日のレース後、多くの外国人ランナーが走ったままの姿で完走タオルを肩にかけて地下鉄に乗っていた。実は日本はランナーに優しすぎるかもしれない。海外のレースは、走り終わった後のことは自分でなんとかしろというのが普通なのかもしれないと思う。

 こんなに文句があるにもかかわらず、いつもの習性で抽選に応募し、なぜか当選してしまった東京マラソンが2週間後に迫っている。回復できるのだろうかと思いながら、きぬかけの道を下る。

6.4 仁和寺

 いよいよ本日のメインである仁和寺が見えてきた。翌日観光のメインを仁和寺にしたのは、日本一、いや世界一ランナーに理解のあるお寺だからだ。応援していただいたお礼をしたかった。というのが表向きの理由で、本当のところは前日の受付会場で、アスリートビブスなどと一緒に「仁和寺御所庭園無料拝観券」をいただいたからなのである。

 仁和寺二王門前はT字路になっている。真正面から撮影するには、その門の前に延びる道のセンターライン上に立たなくてはならない。車が来ない時に素早く道の真ん中に出る必要がある。
 T字路には信号もあり、赤信号で門の前に車が並んでしまう。もちろん観光客も途絶えることはない。つまりシャッターチャンスがほとんどないのである。

 3人映ってしまったが、これで妥協した。この写真を1枚撮るのに10分以上かかってしまったのだ。人影はソフトで消せる。でもそのようなことはあまり好きではない。

 受付で無料拝観券を提示し、「いつも応援ありがとうございます。」とお礼を述べる。パンフレットをいただき、左手の門から中に入る。出迎えていただいたのは、腕を組んだ将棋の藤井聡太竜王と佐々木勇気八段であった。

 ここで数々の将棋タイトル戦が行われているようで、直近が令和6年(2024年)10月25日、26日に行われた第37期竜王戦七番勝負第3局であった。この対局は藤井聡太竜王が勝利し2勝1敗になったとのことだ。封じ手の用紙と封筒も展示されていたが、お二人とも字は将棋ほど上手ではないようだ。

 将棋対局は宣伝効果は大きいだろう。でもここでの売りは、やはり廊下の外に広がる庭園だ。

 建物の外に出て中門に向かって歩く。

 中門をくぐり先に進むと、右手に五重塔がある。そして正面に国宝の金堂がそびえたつ。金閣寺とは違い、ほとんど人はいない。海外向けのガイドブックには仁和寺は紹介されていないのだろうか。昨日マラソンを走ったと思われるランニングシューズを履いた日本人とは数人すれ違った。

 境内をぶらぶらする。広々としていて、気持ちも晴れやかだ。金堂では手を合わせた。仁和寺は真言宗御室派の総本山とのことだ。私の家は代々真言宗智山派であるが、ランナーとして生きてきた私は、真言宗御室派に変わりたいと思う。しかしそうは思っても、関西地方にしかこの宗派のお寺はなさそうである。

 天気が急変し、突然大粒の雨が降ってきた。
 二王門に向かって慌てて戻る。

 二王門を出るとちょうどバスが来たので、行先も確認せずに飛び乗った。もう少しゆっくりしたかった。
 バスの車中で路線図を広げ、西大路御池というところまで行くことにした。バスは混んでいたが、上手い具合に座れたのはラッキーだった。

6.5 智積院

 西大路御池から地下鉄で東山駅に移動する。もう一度京都マラソンのゴール地点を見にいくのではなく、東山三条でバスに乗り換える。

 祇園や清水道のバス停では多くの人々が乗り降りする。窓の外を見ると歩道から人があふれ出てしまうほどで、ここもほぼ外国人観光客であった。オーバーツーリズムとはこのことだ。そして東山七条のバス停に着く。私の他に降りる人はいない。バス停は智積院の前ある。

 智積院は、真言宗智山派の総本山である。私の家は代々この宗派でるため、京都に来た時に時間があれば立ち寄るようにしている。
 昼食がまだだったので、お参りなどは後回しにして、まっすぐ食堂へ向かう。しかし、2年前には確かにあったその食堂が無くなっていた。仕方がないので喫茶室に入る。
 ランチタイムは食事も出してるようだったが、14時を過ぎていて喫茶のみ。一番ボリュームがありそうなアップルパイとコーヒーを注文する。スマホに写真を残したが、後で見たらピンボケだった。

 この智積院に初めて来たのは、1970年、小学校6年生の夏休みであった。お寺で3泊4日して大阪万博を見に行った。
 総本山で全国から僧侶が集まることがあるため、宿泊施設があるようだった。早朝たたき起こされお勤めをしなくてはならなかったことだけは今でも覚えている。
 今年の万博は、阪神甲子園球場でのベイスターズ戦チケットが確保出来たら、それに合わせてちょっと見ようかなと思っている。

 写真のように広い境内には私の他に誰もいない。そう、ここは観光地ではないのだ。お寺はこうでなくてはならない。観光名所には人があふれているが、ちょっと外れれば閑静な世界が広がっている。
 2日前に京都に来ていろいろ回ったが、ここで初めて財布から10円玉を取り出し、お賽銭を入れて手を合わせた。
 智積院には、国宝の襖絵や、名勝庭園があり、初めて行く方は必見である。人にはお勧めするが、私はもう何度も見ているし、有料なので今日はパスする。
 梅の木も植えられているが、京都マラソンの時期はつぼみばかりである。

 智積院へのお参りを済ませ、予定は終了した。まだ時間があるので京都駅行きのバスには乗らずぶらぶらと歩く。
 いつもは通り過ぎる京都国立博物館に入って見ようと思うが、休館日であった。マラソン翌日観光の難点はここにある。

 このあと、東本願寺、西本願寺と順に歩いていく。

 西本願寺の前に「誰もが、ただ、いていい場所。」と書いてある看板があった。解釈するのがちょっと難しい。

 英語の、”A place where you belong.”のほうが、この場所ではしっくりくる。

 観光はここまでにして、京都駅に戻ると、新幹線の改札口や切符売り場はとても混雑していた。上下線とも運転見合わせ中だったのだ。私は事前に切符を買っておくことはぜす、直前にスマートホンで購入する。遅れているときは、すでに出発時刻を過ぎている列車の指定席も買えることに感心した。

 「今日はもう運転できません。」となって、仕方なく京都にもう一泊となることをちょっと期待した。急いで帰宅する必要はない。でも残念ながら運転再開のアナウンスがあり、それから切符を購入し、駅弁を買って改札口を通る。

おわりに

 今回は、マラソンを走るペース設定からめぐる観光地まで、すべて無計画で京都に来た。私の所属するつじかぜアスリートクラブから参加する人たちに、前日の夜みんなで食事するので来ませんかと誘われていた。でもそこに一つ予定を入れてしまうと、ぶらぶらできなくなってしまうので、ありがたいけれど丁重にお断りして、自分ひとりで過ごした。知人に誰一人として会うことのなかった3日間も、それはそれで貴重だった。

 次は2週間後の東京マラソン。ハードスケジュールだ。まともに走れるかどうかわからない。もちろん難しいことは確かだ。でも「わからない」と書いたのは、走れるかもしれないと思っているから。どうなるか、楽しみだなあ。

(了)

投稿者

バリー

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