ホテルを出たときには、雨は傘がいらない程度で、気温は寒くなく、風もほとんどなかったので、意外にもいいコンディションかもと期待したが、阪急の西京極駅を降りたときには傘なしでは歩けない。ウォークマンでユーミンの初期のころの曲を聴く。天候にあわせて「雨のステイション」を選ぶ。名曲でも走る前には適さないので、「12月の雨」に切り替える。前回の京都マラソンはサブ3.5だった。今となっては夢のようなタイム。時はいつの日にも親切な友達、過ぎていくきのうを物語にかえてしまうのだ。

 こんな感じで気分は一向に盛り上がらず、野球場のスタンド下で準備をする。インナーの上に長袖のウエア、その上に多摩川クラブのTシャツ。その上に配布されたビニールポンチョ、さらにその上に100円ショップのビニールカッパを羽織る。野球なら間違いなく中止になるほど雨脚は強くなる。でも全然寒くない。迷う。このウエアではたぶん暑い。長袖を脱いでアームウォーマーにかえようと何度も思ったが、すでにリュックは荷物預け用ビニールにいれてあり、足元も水浸しなので、もう一度荷物を空けるのがおっくうであった。そのまま時間ぎりぎりまで屋根の下にいた。結果的には、これが今回の失速の原因になってしまう。

 荷物預け締め切り5分前に野球場から出たら、大勢の人波でトラックの方向へ思うように歩けない。締め切り時間は過ぎてしまい、その旨放送もされていたが、かなりの人数が荷物を抱えて押し合いへし合い状態だ。でも、これで荷物を預けられないことになるとは思えず、あせることはなかった。今回のトラックは①番で一番遠い。Cブロックなのになんで①番なのか不思議だったが、陸連登録だからだろうと思う。

 なんとか荷物を預けて陸上競技場に入り、最後にトイレに寄ってトラックに並ぶと、すぐに開会式が始まった。スタート地点が見えるところに並べるのは嬉しい。スタート地点まで約半周200mほどである。100円ショップのカッパを脱ぎ、係の人が持つゴミ袋に捨てる。ビニールポンチョは着たままスタート。小雨である。

 直ぐに暑くなる。やっぱり一枚脱いでスタートすればよかった。両手の手袋は外して手に持ち、手の中にいれておいたミニホカロンはポケットに入れる。腕をまくって走る。このような状態だと結構汗をかき、湿度が高くて汗が乾かず、さらに汗が出て脱水の危険がある。だから最初の給水所から多めに水分をとった。

 途中トイレに寄ってもサブ4では走れるだろう。予定通りのペースで進む。コースは前半が登りで、ちょっときついところはあるが、奈良マラソンのような激しい坂ではない。仁和寺でお坊さんの声援を受け、ポンチョも脱ぎ捨て、中間地点はネットで1時間58分40秒程度で通過する。雨は弱くなってきた。

 22kmすぎ、ちょうど空いているのが見えたのでトイレによる。水分取りすぎかもしれない。トイレからでたところは給水所で、おせんべいがあり一袋手に取る。手が滑って袋が開けられない。お兄さんにこれ開けてと頼むが、彼も開けられない。あきらめて再スタートしようとも思ったが、必死に開けてくれているのでちょっと待って受け取り、食べながら走りだした。タイム的には4時間ちょうどぐらいになってしまったが、この先はほぼ下り坂である。十分いけるだろうと思って元のペースに戻そうとする。でも戻せない。止まっていたのは高々1分間程度。これだけでもう走れなくなってしまったのである。3年前の失速がよみがえる。

 さらに悪いことに、今度はお腹が痛くなってきた。次のトイレで個室に入る。ここからまだ挽回できると思ったが、次のトイレまでなんとかたどり着きもう一度列にならぶ。「多摩川から来たんですね」などと話しかけられたが、笑顔を返せなかった。給水の摂りすぎである。このレースはここで諦めるしかなかった。

 スピードダウンしたためか、今度は寒い。手袋は雨でぐっしょりであったがもう一度着けて、ホカロンを中に入れて走り出す。ホカロンを捨てなくてよかった。実際気温がどんどん下がってきているようだ。

 すぐに体調は戻ったが、ここから先は2週間後の東京マラソンの調整に徹するのがベターと判断する。今日の目標は4時間半切りに変え、キロ7分程度で走ることにした。失速したのが早かったからか、ゆっくりだからなのか、楽に走れる。周りの景色を楽しむ余裕がある。舞妓さんの前では減速して大きく手を振る。多摩川育ちの私が得意な鴨川河川敷は笑顔で走り抜ける。京都御所の前も走るんだとか、何度も走っているコースなのに、新鮮な景色も見える。沿道から何度も「多摩川クラブがんばれ」と声をかけてもらえた。最後の0.195kmはダッシュしてフィニッシュ。ちょっと前に京都府知事がゴールしていて、もう少し早めにスパートすればTVに映ったのにと思う。

 4時間半はボリュームゾーンのようで、フィニッシュしてからタオルやメダルをもらうまで、列が長く時間がかかった。荷物を受け取りにいくと、またしても①番の荷物置き場が見つからず、尋ねてみたら離れた場所にあるという。荷物の前には長い列が出来ていて、更衣場所の入り口にもかなりの人がいる。まだ雨が降っていて、外で着替えるわけにもいかない。いやだなと思いながら①番のところに行く。番号順にならべて待ち構えてくれているようで、私が近づいた時にはすでに係の人が荷物を持って待っていてくれた。奈良マラソンに続き、これはとてもよい。受け取ると、更衣場所はそちらですと案内された。そこは先ほどの人混みとは違う、別の入口だった。中はすいていた。

 全然疲れてないと思いながら、ゆっく着替える。ここは特別の場所のようだ。陸連登録ランナーのためだけに、この場所が用意されているにしては、①番の荷物はまだかなりの数が残っていた。そう、その時私は、ふるさと納税枠で出場したことを思い出したのであった。

 雨の京都でフルマラソン完走65回目。いつの日にが物語にかわるだろう思い出を作れた大会だった。

(了)